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"BIUTIFUL-ビューティフル(2010)" [movie-b]

「大好きな映画とは??」

何度も観て、細部も記憶に刻み、観ると気分が上がったり、心地良かったり、
そしてただそれだけではなく「何か」を感じられる。
そんな作用を私にもたらす映画を、私は「好きだ」とはっきり言い切れる。
いままでに観た作品は数え上げるときりがないけれど、その中で本気でそう思えたのはほんの一握り。
"ビューティフル-BIUTIFUL"
この作品はそういった個人的嗜好とは一線を画す。
こうして観終わった後にも深く満たされた感覚があり、
この映画を観に来てよかったと思っているにもかかわらず、もっと何度も観たいと思うことができず、
この映画について考えようとすると心がきりきりと締め付けられるようで、
思考はあちらこちらと惑い、考えが定まらず、どうしても「好き」と言い切れない。
それはアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥという監督が、
どれだけの表現能力を持ちえている作家なのかということを端的に表しているような気もする。
彼の作品を観るという行為に対して、定まった感情が持てない。
それはとりもなおさず彼の作品がどれだけ強いメッセージ性と問題性を孕んでいるか、ということにも通じる。
死、は昔から文学や映画や音楽の中でテーマとして捉えられてきているが、
その中でも、このようなネガティブなもの、誰もが避けることのできないもの、
大昔から何度も何度も取り上げられたこの普遍的なテーマを、
これほどまでに色濃く描ききっている作品はやはりそこまで多くないのでは、と思う。

主人公ウスバル(ハビエル・バルデム)の存在感がすごい。
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オープニングは最後につながる伏線として美しくも情緒的な情景が描かれているが、
始めから終わりまで、彼の存在感無くしてはこの作品はありえなかった気がする。
バルセロナに暮らすウスバルは、精神的に不安定な妻マランブラ(マリセル・アルバレス)と別れ、
ふたりの子供を育てるためにアフリカや中国からの不法移民への仕事斡旋や、警察への仲介役を生業として金を稼いでいた。
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身体の不調を感じた彼は病院で検査を受けるが、結果は余命2か月という過酷なものだった。
家族に伝えられず日々を生きるウスバルの周りでは様々なでき事が起こる。
その起こる事柄にも執拗なまでに「死」の影がまとわりついているのだ。
ヨーロッパの中でもラテン系で比較的治安が悪いイメージのあるスペイン。
大都市バルセロナのスラムはこの作品の混沌としたイメージにぴったりな場所だと思う。
スラム街のピリピリした雰囲気、繁華街で商売をする移民やジプシーの存在、
サグラダ・ファミリアの荘厳さがむしろ夢のようにすら思われる汚いアパートや路地。
作品の細部にまでイニャリトゥ監督の意識が入り込んでいる。
もうひとつ、死にまつわる出来事にウスバルの存在が大きく絡むのは、霊的な体験談である。
元々霊媒体質として描かれる彼の体験が、可視化され、
視覚・聴覚ともに映像化される様は見事だ。
胡散臭ささえ感じられるこれらの演出は、
観終わった今では、すべてこの映画に必要不可欠なものだった、ということが理解できる。
そして、いままでの監督作品にもその傾向は強く出ていたけれど、
音が特に重要なファクターとして存在するように感じられる。
たとえば模倣される海と風の音。耳障りな街の音。いかがわしいクラブでの強烈なダンスミュージック。
映像的には手触りすら感じられそうなリアリティを追求するイニャリトゥ監督は、
時に不快感を感じるほど強く聴覚に訴える音響効果で、観る者の感覚を研ぎ澄ます。

色々な意味でこれほどまでに心をかき乱される作品に出会ったのは久しぶりだった。
死と向き合う。ある意味こんなにも人間らしい行為は他にないかもしれない。
そこに至る過程のドラマは人それぞれだし、
自分の年齢だとまだまだ遠いこととして取り合うことをしなかったりするけれど、
あえて避けずに考えることも、時には必要じゃないかとさえ思えた。
そして家族というファクター。
特にウスバルの子供たちに対する愛情と、子供たちのウスバルへの信頼は、本当に純粋だと思えた。
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そして精神的な問題を抱えるがゆえに、その家族という温かなサークルからはみ出してしまう母マランブラ。
彼女の存在もまた、死というファクターに捉えられていたのかもしれない。
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重く、長い映画だった。
けれどその中身は本当に濃く、蔑ろにできる部分は少しもない。
死と、そして死を描くことによって生を、生を描くことによって愛を、描いているのだと思った。
今年観た中でいちばん重みを感じ、観た後に強い充実感を感じられた映画。

BIUTIFUL ビューティフル(2010)
BIUTIFUL
2010/ESP=MEX/148min

監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
原案:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
脚本:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ/アルマンド・ボー/ニコラス・ヒアコボーネ
撮影: ロドリゴ・プリエト
美術:ブリジット・ブロシュ
編集:スティーヴン・ミリオン
音楽:グスターボ・サンタオラヤ
出演:ハビエル・バルデム ウスバル
マリセル・アルバレス マランブラ
エドゥアルド・フェルナンデス ティト
ディアリァトゥ・ダフ イヘ
チェン・ツァイシェン ハイ
アナー・ボウチャイブ アナ
ギレルモ・エストレヤ マテオ
ルオ・チン リウェイ

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