"GRAN TRINO"-グラン・トリノ(2008) [movie-g]
クリント・イーストウッド。
毎回、彼の作品を観るたびに、
「なんて作品を撮るんだ」
と、思わされずにいられない監督の一人。
この作品で、事実上俳優業の引退を宣言しているので、
もしかしたらこの作品が彼の監督兼主演作品としては最後の作品となるかもしれない。
そのイーストウッドが演じるのは、50年間フォードの組立工として勤め上げ、
'72年型グラン・トリノというフォードのクラッシック・カーを所有する、
朝鮮戦争帰還兵でごりごりの人種差別主義のポーランド系アメリカ人ウォルト・コワルスキー。
その頑固さゆえに家族からも疎まれ、幾人かの昔馴染みと悪態をつきあう程度の交流しか持たず、
日本車が台頭し、東洋系の移民に占拠されたデトロイトの街で、隠居暮らしをしている頑固な老人。
そんな彼と隣家のモン族の少年タオとの交流を描いたのがこの"グラン・トリノ"である。
モン族、と聞いてぴんとこなかったので調べてみると、
彼らは中国、タイ、ミャンマー、ラオス、ベトナムなどにも住む、歴史上移住を繰り返した民族で、
ベトナム戦争の際、アメリカに協力したことで、終戦後、彼らの一部がアメリカに難民として受け入れられたという。
映画の中でもタオの姉スーがその事実をウォルトに語っている。
この作品はそんな人種的背景を元に語られる。
CAUTION!!
**この後の文章にはストーリーの一部が記載されています。
-------------------------------------------------------------------
ウォルトの妻の葬式から物語は始まる。
妻を亡くし、ますます自分一人の頑固な世界に閉じこもるウォルト。
心を許しているのは飼っている老犬デイジーと、幾人かの昔馴染みのみ。
彼の唯一の楽しみは磨き上げた愛車グラン・トリノを眺めつつ、
ポーチで大好きな銘柄のビールで一杯やること。
さて、そのグラン・トリノ、日本人にはなじみの薄い車名である。
タイトルをはじめて聞いたとき、一体何のことかわからなかった。
英語でgreat~ではなく、イタリア語でgran、そしてtrinoはイタリアのトリノのことだろうか。
何となく、郷愁を誘う響きがある。
この映画の象徴であり、キーとなる車。
しかし物語の最後までこの車が車道を走るところは出てこない。
黒人に絡まれているところを助けたことで、
はじめはタオの姉、スーとコミュニケーションをとるようになるウォルト。
ある日、自慢の庭でもみあうタオと、
彼と同じモン族の不良少年グループがもみ合っているところに遭遇し彼らを追い払うが、
それが結果的にタオを助けることとなり、隣家との交流が深まる。
背後に見えるのが件のグラン・トリノ。
スーや母親に迷惑をかけた償いのためにタオを雑用でもいいから使ってくれと頼まれ、
はじめは疎ましく思っていたウォルトだが、
タオのいいところを目にし、少しずつ彼のことを気にかけるようになる。
朝鮮戦争帰りの白人と移民の東洋人。究極の異文化交流だ。
ただし、文化は違えど、人と人であることには変わりはない。
父親のいないタオに、男としての生き方を教えていくウォルト。
スーにうまくあしらわれ、困惑する姿も微笑ましい。
ウォルトとタオ、ふたりの絆が深まりかけたところで、事件が起こり、
決着をつけるためにウォルトはひとり不良少年グループの元へ向かう。
そこでの結末に、正直言って観客は衝撃を受けるだろう。
けれど観終わって、心の動揺(感動と言ってもよい)が鎮まるのを待って冷静に考えると、
ああ、これはイーストウッドが理想とする人生の幕引きの方法のひとつなのかな、と言う気もした。
まさに老カウボーイが死地に向かい、人生に決着をつけるときのような、そんな、男の幕引き。
…私は女だし、ウォルトが毛嫌いするアジア人でもあるし、彼と相容れること難しいだろうと思うけれど、
タオやスーが彼を好きにならずにいられなかったように、もし、彼の隣人だったら、
彼のことを気にかけるようになったかもしれない。
それは彼が矜持を持っているから、
老いてなお、人として忘れてはいけない「孤」と「個」と「誇」に向き合っているから、だと思う。
こんなじいさん、いまの東京にいてほしいもんだと思ってしまったのは、私だけじゃないはず。
そしてまだまだイーストウッドには作品を撮り続け、できることならまたスクリーンに戻ってきてほしいものだ。
嗄れ声のイーストウッドとジェイミー・カラムが歌う、あくまで静かで穏やかな、エンディングも良かった。
GRAN TORINO
グラン・トリノ
2009/USA/117min
監督:クリント・イーストウッド
脚本:ニック・シェンク
撮影:トム・スターン
編集:ジョエル・コックス/ゲイリー・D・ローチ
音楽:カイル・イーストウッド/マイケル・スティーヴンス
出演:クリント・イーストウッド/ビー・ヴァン/アーニー・ハー
クリストファー・カーリー/コリー・ハードリクトブライアン・ヘイリー
ブライアン・ホウ/ジェラルディン・ヒューズ/ドリーマ・ウォーカー
ジョン・キャロル・リンチ/スコット・リーヴス/ブルック・チア・タオ
毎回、彼の作品を観るたびに、
「なんて作品を撮るんだ」
と、思わされずにいられない監督の一人。
この作品で、事実上俳優業の引退を宣言しているので、
もしかしたらこの作品が彼の監督兼主演作品としては最後の作品となるかもしれない。
そのイーストウッドが演じるのは、50年間フォードの組立工として勤め上げ、
'72年型グラン・トリノというフォードのクラッシック・カーを所有する、
朝鮮戦争帰還兵でごりごりの人種差別主義のポーランド系アメリカ人ウォルト・コワルスキー。
その頑固さゆえに家族からも疎まれ、幾人かの昔馴染みと悪態をつきあう程度の交流しか持たず、
日本車が台頭し、東洋系の移民に占拠されたデトロイトの街で、隠居暮らしをしている頑固な老人。
そんな彼と隣家のモン族の少年タオとの交流を描いたのがこの"グラン・トリノ"である。
モン族、と聞いてぴんとこなかったので調べてみると、
彼らは中国、タイ、ミャンマー、ラオス、ベトナムなどにも住む、歴史上移住を繰り返した民族で、
ベトナム戦争の際、アメリカに協力したことで、終戦後、彼らの一部がアメリカに難民として受け入れられたという。
映画の中でもタオの姉スーがその事実をウォルトに語っている。
この作品はそんな人種的背景を元に語られる。
CAUTION!!
**この後の文章にはストーリーの一部が記載されています。
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ウォルトの妻の葬式から物語は始まる。
妻を亡くし、ますます自分一人の頑固な世界に閉じこもるウォルト。
心を許しているのは飼っている老犬デイジーと、幾人かの昔馴染みのみ。
彼の唯一の楽しみは磨き上げた愛車グラン・トリノを眺めつつ、
ポーチで大好きな銘柄のビールで一杯やること。
さて、そのグラン・トリノ、日本人にはなじみの薄い車名である。
タイトルをはじめて聞いたとき、一体何のことかわからなかった。
英語でgreat~ではなく、イタリア語でgran、そしてtrinoはイタリアのトリノのことだろうか。
何となく、郷愁を誘う響きがある。
この映画の象徴であり、キーとなる車。
しかし物語の最後までこの車が車道を走るところは出てこない。
黒人に絡まれているところを助けたことで、
はじめはタオの姉、スーとコミュニケーションをとるようになるウォルト。
ある日、自慢の庭でもみあうタオと、
彼と同じモン族の不良少年グループがもみ合っているところに遭遇し彼らを追い払うが、
それが結果的にタオを助けることとなり、隣家との交流が深まる。
背後に見えるのが件のグラン・トリノ。
スーや母親に迷惑をかけた償いのためにタオを雑用でもいいから使ってくれと頼まれ、
はじめは疎ましく思っていたウォルトだが、
タオのいいところを目にし、少しずつ彼のことを気にかけるようになる。
朝鮮戦争帰りの白人と移民の東洋人。究極の異文化交流だ。
ただし、文化は違えど、人と人であることには変わりはない。
父親のいないタオに、男としての生き方を教えていくウォルト。
スーにうまくあしらわれ、困惑する姿も微笑ましい。
ウォルトとタオ、ふたりの絆が深まりかけたところで、事件が起こり、
決着をつけるためにウォルトはひとり不良少年グループの元へ向かう。
そこでの結末に、正直言って観客は衝撃を受けるだろう。
けれど観終わって、心の動揺(感動と言ってもよい)が鎮まるのを待って冷静に考えると、
ああ、これはイーストウッドが理想とする人生の幕引きの方法のひとつなのかな、と言う気もした。
まさに老カウボーイが死地に向かい、人生に決着をつけるときのような、そんな、男の幕引き。
…私は女だし、ウォルトが毛嫌いするアジア人でもあるし、彼と相容れること難しいだろうと思うけれど、
タオやスーが彼を好きにならずにいられなかったように、もし、彼の隣人だったら、
彼のことを気にかけるようになったかもしれない。
それは彼が矜持を持っているから、
老いてなお、人として忘れてはいけない「孤」と「個」と「誇」に向き合っているから、だと思う。
こんなじいさん、いまの東京にいてほしいもんだと思ってしまったのは、私だけじゃないはず。
そしてまだまだイーストウッドには作品を撮り続け、できることならまたスクリーンに戻ってきてほしいものだ。
嗄れ声のイーストウッドとジェイミー・カラムが歌う、あくまで静かで穏やかな、エンディングも良かった。
GRAN TORINO
グラン・トリノ
2009/USA/117min
監督:クリント・イーストウッド
脚本:ニック・シェンク
撮影:トム・スターン
編集:ジョエル・コックス/ゲイリー・D・ローチ
音楽:カイル・イーストウッド/マイケル・スティーヴンス
出演:クリント・イーストウッド/ビー・ヴァン/アーニー・ハー
クリストファー・カーリー/コリー・ハードリクトブライアン・ヘイリー
ブライアン・ホウ/ジェラルディン・ヒューズ/ドリーマ・ウォーカー
ジョン・キャロル・リンチ/スコット・リーヴス/ブルック・チア・タオ
これ、ほんと良い映画でしたよね〜。
イーストウッド作品の中でも一番好きかも。
俳優としても、まだやって欲しい気もするんだけどな〜。
by ジジョ (2010-04-19 20:22)
こんにちは。
衝撃の結末という言葉に偽り無しの映画でした。
私も一番好きなイーストウッド映画です。
by キキ (2010-04-19 21:33)
>>ジジョさん
本当に、イーストウッド作品の中でもかなり上位にランクインする作品ですよね。
そしてまだまだスクリーンで彼の姿を観たいと思います。
なんだか気にいる作品があったらまたふらっと出そうな気もするんですけどねー。
by movielover (2010-04-22 02:53)
>>キキさん
あの衝撃のラストの演出は流石と言う感じですね。
イーストウッドは歳をとればとるほどいい作品を撮ってくれそうな気がします。
by movielover (2010-04-22 02:55)