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"THE HURT LOCKER"-ハート・ロッカー(2008) [movie-h]

ここしばらく映画館から遠ざかっていたけれど、
久々に何か観ようと思い立ってレイトショーへ。
観ようか、観まいか、迷っていた一本「ハート・ロッカー」。
ずっと綴りを知らず、勝手に"THE HEART ROCKER"だと思っていたけれど、
実際には"THE HURT LOCKER"-アメリカ軍の用語で、「苦痛の極限地帯」=「棺桶」を意味する。

冒頭に、印象的な一文が挿入される。
The rush of battle is often a potent and lethal addiction, for war is a drug
-戦闘での高揚感はときに激しい中毒になる。
そして最後に残される"war is a drug"(戦争は麻薬である)という一言。
クリス・ヘッジスというピューリッツァも受賞したジャーナリストの言葉だそう。

さて、本編はと言うと、無名に役者を使うことによってドキュメンタリー性を高め、
限りなくリアリシズムを追求した戦争映画である。
イラク戦争を舞台に、アメリカ陸軍ブラボー中隊の爆発物処理班の任務明けまでの38日間を描いた物語。
任務完了を目前に爆発で人望の厚いリーダーを亡くしたブラボー中隊に、
新たなリーダーが赴任してくるところからストーリーは始まる。
新リーダー、ジェームズ二等軍曹は自分の身の危険も顧みず、
向う見ずとも思えるような行動で任務を遂行してゆく。
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それがチームの他のふたりのメンバーの神経を逆なでし、
チームはばらばらになるかに見えたが、ある事件をきっかけに団結を強め、
そしてまたある任務をきっかけに彼らの心はばらばらになってゆく。
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爆発物処理班の技術兵の死亡率は戦地の他の軍人に比べても5倍近いという。
そんな特殊な任務に就く兵士の心理描写を丹念に描いている点では、
この作品は非常に成功していると言えるだろう。
演出も、演じている役者たちも、本当にすごい。
特にジェレミー・レナー、アンソニー・マッキー、ブライアン・ジェラティの3名は称賛に値する演技。
描かれているのは兵士を演じる彼らの苦悩、彼らの怒り、彼らの希望、そして、たとえようのない緊迫した日々の連鎖。
戦争と言う非日常の連続の中で彼らが経験し、得るものと失うもの。
この緊迫感と彼らの内面まで迫った演出は、ビグロー監督の、この映画にかける真摯な姿勢を感じた。
あえて、観客を過度にどきどきさせるような、
極端に緊張を強いる演出や俗悪でグロテスクな描写をとらずリアルさを追求したことで、
この作品が成功した部分は多いと思う。
フセイン政権崩壊後も負の連鎖から逃れられず、いまだ実質的な終息を迎えていないイラク戦争。
平和な日本でその状況を観ていて心に浮かぶのは単純な「なぜ??」という疑問。
「なぜアメリカはこの戦争を始めたのか」
「なぜ彼らは戦い続けるのか」
アメリカが関わる近代戦争を知るたびに感じる彼らの傲慢さ。
自分たちが正しいという、頑ななまでの自信。
戦争というトピックを取りあげるとき、アメリカと言う国全体から感じるのはそういう救い難いエゴなのだけれど、
兵士たちの純粋なヒロイズムと勇敢さ、そしてその代償として兵士たちが失い、得てゆくもの、
そういう点にフォーカスした骨太な作品を女性監督が撮ったからこそ、高い評価を得たのだと思う。
冒頭のクリス・ヘッジスの言葉とリンクするラストは、ある意味やむを得なかったのかもしれない。

痛いほどのリアリシズムが感じられたけれど、
これを観て、現実を知ることも、戦争への理解を深める第一歩。
良くも悪くも、世界の片隅でこういう状況が続いているということなのだ。

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THE HURT LOCKER-ハート・ロッカー
2008/USA/131min

監督:キャスリン・ビグロー
製作:キャスリン・ビグロー/マーク・ボール/ニコラス・シャルティエ/グレッグ・シャピロ
製作総指揮:トニー・マーク
脚本:マーク・ボール
撮影:バリー・アクロイド
音楽:マルコ・ベルトラミ/バック・サンダース
出演:ジェレミー・レナー/アンソニー・マッキー/ブライアン・ジェラティ/レイフ・ファインズ
ガイ・ピアース/デヴィッド・モース/エヴァンジェリン・リリークリスチャン・カマルゴ
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