SSブログ

"MOON-月に囚われた男"(2009) [movie-m]

さて大人しく久々に映画でも観ようと思ってチョイスしたのがこちら。
『月に囚われた男』
監督のダンカン・ジョーンズがデイビッド・ボウイの息子と言うこともあってか話題になり、
評判もよくずっと気になっていた作品。

いい映画の条件のひとつに、『設定が面白い』という条件があると思う。
いかに優秀な役者が集まっていても、設定ひとつで観客の作品に対する興味はがらりと変わる。
SFというジャンルは好き嫌いがはっきり出やすい傾向があると思うので、
一概に皆が面白いと思うわけではないかもしれないけれど、
低予算で、限られた条件で作らなくてはならなかったからこその良さが感じられた。


枯渇した地球のエネルギーを補うために、
月の裏側から採取されるエネルギー源ヘリウム3が地球を救うクリーンエネルギーとして注目される時代。
地球のエネルギー供給の70%を占めるヘリウム3の採掘を一手に引き受けるルナ産業(LUNAR)との契約で、
3年の期限で月にある基地に送り込まれるのがサム・ロックウェル演じるサム・ベル。
採掘作業から抽出、精製まではオートメーションで、
サムは採掘されたエネルギーをロケットで地球に送るだけの仕事のために雇われている。
3年の契約期限にあと2週間と迫り、愛する妻と娘に会う直前で、サムは事故を起こしてしまう。
その事故の後、次々と不可思議なことが起こり始め、サムを追い詰めてゆく…。
moon 002.jpg

最近のSFで言えば、"第9地区”の『宇宙人との共存』という設定ほどのインパクトはないけれど、
低予算のインディペンデント映画ならではのリアリティを感じさせる仕上がりになっていると思う。
ただしちょっと意地悪なことを言ってしまうと、普通、月で誰かに仕事をさせるとしても、
たった一人で仕事をさせるリスクや、雇用者の精神状態を懸念すると、
どんな企業もひとりで仕事をさせる、という選択はしないような気もする。
しかもなんせ地球の70%ものエネルギー供給をカバーする重要な仕事。
エネルギー供給が突如途絶えたら大変なことになるかもと思うけれど、
そこを突いてしまうとこの映画は成り立たないので無視するとしよう(笑)。
理由はネタばれするので書きませんが、だからこそサムが選ばれているとも言えるけれど。
とにかく、基地の中はサムと彼をサポートするロボット、ガーティ(GERTY)のみ。
ルナ産業という企業の得体のしれない不気味さみたいなものも、重要なファクターのひとつになっている。
冒頭の宣伝やロゴデザイン、時折交信映像を送ってくる本社の人間、そして基地の無機質な空間。
基地内の壁に英語と並んでハングル文字がデザインされているのも、
ルナ産業が大きな企業で(アメリカ資本だけではなく韓国の資本が入っているとも想像される)、
サムがその中で取るに足らない雇用者であることを暗に示唆しているような気がした。
また、ハングルと並んで壁に書かれている英字のSARANGは、韓国語で「愛、親愛」を意味していて、
監督の遊び心なんだろうなと思わされる。
トリッキーな視点のスイッチもあったり、随所に仕掛けられたキャッチ(引っかかり)で観客は違和感を感じ、
想像を膨らませ、物事を見てしまうようになっていくのではないだろうか。
そしてほとんど唯一の出演者といってよい、サム・ロックウェルの存在。
前々から気になる役者だったけれど、月の基地でただ一人暮らす男のリアリティを見事に演じただけでなく、
さらにはそのあとの特異な展開で追い詰められていくサムを見ていると、
今作にかかる前からサム・ロックウェルにラブコールを送り、
ついには彼のためにこの作品のストーリーを用意したダンカン・ジョーンズの気持ちがよくわかる。
moon 001.jpg

そしてもし、SF映画好きでよく見ている人ならば、
ダンカン・ジョーンズが捧げた過去のSF映画へのオマージュも見て楽しむポイントの一つになるだろう。
個人的にはロボット・ガーティの声にケヴィン・スペイシーを持ってきたところがツボだったけれど。
2001:SPACE ODESSEYの有名なロボットHAL2000を髣髴とさせるが、
HALと対照的な人間臭いキャラクターが、ケヴィン・スペイシーの声でさらに深みを増していると思う。
DVDではダンカン・ジョーンズ監督へのQ&Aなども収録されていて、
インディペンデントフィルムらしい裏話や、実際のセットなども見られて興味深い。

冬に、温かいものでも飲みながらじっくり観たい秀作。
moon 003.jpg

MOON
月に囚われた男
2009/UK/97min

監督:ダンカン・ジョーンズ
原案:ダンカン・ジョーンズ
脚本:ネイサン・パーカー
撮影:ゲイリー・ショウ
衣装デザイン:ジェーン・ペトリ
編集:ニコラス・ガスター
音楽:クリント・マンセル
出演:サム・ロックウェル/ドミニク・マケリゴット/カヤ・スコデラーリオ
ベネディクト・ウォン/マット・ベリー/マルコム・スチュワート
声の出演:ケヴィン・スペイシー


月に囚(とら)われた男 コレクターズ・エディション [DVD]

月に囚(とら)われた男 コレクターズ・エディション [DVD]

  • 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
  • メディア: DVD


監督、お父さんとはあんまり似てませんね。
『月に囚われた男』『地球に落ちて来た男』DVD-BOX

『月に囚われた男』『地球に落ちて来た男』DVD-BOX

  • 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
  • メディア: DVD



nice!(7)  コメント(5)  トラックバック(0) 

nice! 7

コメント 5

ken

こんなに重要な仕事を一人でさせるなんて、ちょっとリアリティに欠けていましたね。
でも僕はそれに気付かなかった(笑)。サム・ロックウェルはさすがでした。
by ken (2011-02-28 18:19) 

movielover

>>kenさん

私も観ているときはまったく気づきませんでしたが、
レビューを描きながら冷静に考えたらそんな気がしてきてしまいました(笑)。
サム・ロックウェルの演技が良かったので、
そんなこと気にする暇がなかったのかもしれません。さすがでした。
by movielover (2011-02-28 23:12) 

moz

デイビッド・ボウイの息子の映画ということで、確か新聞か何かで見た記憶があります。
地味そうですが、玄人受けする感じの作品のようですね。 ^^
TSUTAYA に行ってみます。
by moz (2011-03-04 05:21) 

ジジョ

こんにちは〜。
監督の映画や作品への愛情がたっぷり感じられて、
とっても好きです〜☆
次回作も楽しみな人ですね^^
by ジジョ (2011-03-04 10:13) 

movielover

>>mozさん

結構話題になってましたよね!
確かに玄人受けする感じかもしれないです。
TSUTAYAで1本1000円のラインナップに入っていてびっくりしました。

>>ジジョさん

確かに若さも手伝ってか、僕映画好き!!って感じの監督ですよね。
次回作も楽しみですよね。
by movielover (2011-03-06 22:00) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

近況EARTHQUAKE ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。