"DID YOU HEAR ABOUT THE MORGANS?-噂のモーガン夫妻(2009)" [movie-d]
このところ、震災含め色々あり過ぎて、ちょっと頭がショートしそうなので、
何も考えずに観られるラブコメをセレクト。
NYでセレブな生活を送る、不動産会社のスーパーセールスウーマンの妻にサラ・ジェシカ・パーカー、
浮気が原因でホテル暮らしを余儀なくされている敏腕弁護士の夫にヒュー・グラント、という、
ラブコメと言っても、別居中の夫婦を題材にしたちょっと大人のラブコメ。
サラのキャラクターはSATCのキャリーを彷彿とさせるNYのキャリアウーマンだし、
ヒュー・グラントのキャラクターは2枚目ながら少し頼りないお決まりの優男。
監督に『ラブソングができるまで』のマーク・ローレンス。
これでヒットしなかったら詐欺だと言わんばかりの布陣。
NYのど真ん中でセレブな生活を送っていた別居中の夫婦が、
偶然殺人事件を目撃したことにより命を狙われる羽目になり、FBIの証人保護プログラムにより、
ふたり揃ってワイオミング州レイという、NYと対照的だけれど、
いかにもアメリカらしい片田舎に滞在することになるところから始まる。
最初はぎくしゃくしていた二人がだが、
普段出会わないような人と出会い、普段行かないような店に行き、
普段離れていた自然と触れ合うことにより、
少しずつ気持ちがほぐれ、本来の自分たちを取り戻すようになるという物語。
彼ら夫婦を預かるサム・エリオット演じる保安官と、
メアリー・スティーンバージェン演じるその妻の、
元祖アメリカンな雰囲気がとても感じがいい。
私が知っているリアルなアメリカは、実は高校時代にホームステイしたミシガンの片田舎で、
この映画に出てくるワイオミング州レイみたいな本当に何もない片田舎だったのだけれど、
その当時の記憶を彷彿とさせる農業フェアやら、田舎のダイナーやら、大きなスーパーやらの映像があり、
NYなどのスタイリッシュな都会とかけ離れたアメリカが、
実は本来国土の大部分を占めているんだと感じさせてくれるところでもある。
そんな中でほぐれていくふたりの関係を揺るがすかのように現れる、彼らを狙う殺人者の影。
…まぁ、何も考えずに楽しんで観られるという点ではかなりの合格点を差し上げられるのですが、
本当に特筆すべきところがないという点でも、同様のポイントを差し上げられる作品かと。
もちろん、サラもヒューも悪いわけではないし、初めての共演ながら、そこそこ息ももあっていたと思う。
でも、本当に「ここがいい!!」と言い切れるところがなかった。
個人的にはアメリカの田舎を懐かしめたというところで、+5pointくらい差し上げられるでしょうか。
本当に頭をからっぽにして観られるラブコメ、だったと思う。
DID YOU HEAR ABOUT THE MORGANS?
噂のモーガン夫妻
2009/USA/103min
監督:マーク・ローレンス
脚本:マーク・ローレンス
撮影:フロリアン・バルハウス
衣装デザイン:クリストファー・ピーターソン
編集:スーザン・E・モース
音楽:セオドア・シャピロ
出演:ヒュー・グラント/サラ・ジェシカ・パーカー/サム・エリオット
メアリー・スティーンバージェン/エリザベス・モス/マイケル・ケリー
ウィルフォード・ブリムリー/セス・ギリアム/ケヴィン・ブラウン
スティーヴン・ボイヤー/シャロン・ウィルキンス/キム・ショウ
何も考えずに観られるラブコメをセレクト。
NYでセレブな生活を送る、不動産会社のスーパーセールスウーマンの妻にサラ・ジェシカ・パーカー、
浮気が原因でホテル暮らしを余儀なくされている敏腕弁護士の夫にヒュー・グラント、という、
ラブコメと言っても、別居中の夫婦を題材にしたちょっと大人のラブコメ。
サラのキャラクターはSATCのキャリーを彷彿とさせるNYのキャリアウーマンだし、
ヒュー・グラントのキャラクターは2枚目ながら少し頼りないお決まりの優男。
監督に『ラブソングができるまで』のマーク・ローレンス。
これでヒットしなかったら詐欺だと言わんばかりの布陣。
NYのど真ん中でセレブな生活を送っていた別居中の夫婦が、
偶然殺人事件を目撃したことにより命を狙われる羽目になり、FBIの証人保護プログラムにより、
ふたり揃ってワイオミング州レイという、NYと対照的だけれど、
いかにもアメリカらしい片田舎に滞在することになるところから始まる。
最初はぎくしゃくしていた二人がだが、
普段出会わないような人と出会い、普段行かないような店に行き、
普段離れていた自然と触れ合うことにより、
少しずつ気持ちがほぐれ、本来の自分たちを取り戻すようになるという物語。
彼ら夫婦を預かるサム・エリオット演じる保安官と、
メアリー・スティーンバージェン演じるその妻の、
元祖アメリカンな雰囲気がとても感じがいい。
私が知っているリアルなアメリカは、実は高校時代にホームステイしたミシガンの片田舎で、
この映画に出てくるワイオミング州レイみたいな本当に何もない片田舎だったのだけれど、
その当時の記憶を彷彿とさせる農業フェアやら、田舎のダイナーやら、大きなスーパーやらの映像があり、
NYなどのスタイリッシュな都会とかけ離れたアメリカが、
実は本来国土の大部分を占めているんだと感じさせてくれるところでもある。
そんな中でほぐれていくふたりの関係を揺るがすかのように現れる、彼らを狙う殺人者の影。
…まぁ、何も考えずに楽しんで観られるという点ではかなりの合格点を差し上げられるのですが、
本当に特筆すべきところがないという点でも、同様のポイントを差し上げられる作品かと。
もちろん、サラもヒューも悪いわけではないし、初めての共演ながら、そこそこ息ももあっていたと思う。
でも、本当に「ここがいい!!」と言い切れるところがなかった。
個人的にはアメリカの田舎を懐かしめたというところで、+5pointくらい差し上げられるでしょうか。
本当に頭をからっぽにして観られるラブコメ、だったと思う。
DID YOU HEAR ABOUT THE MORGANS?
噂のモーガン夫妻
2009/USA/103min
監督:マーク・ローレンス
脚本:マーク・ローレンス
撮影:フロリアン・バルハウス
衣装デザイン:クリストファー・ピーターソン
編集:スーザン・E・モース
音楽:セオドア・シャピロ
出演:ヒュー・グラント/サラ・ジェシカ・パーカー/サム・エリオット
メアリー・スティーンバージェン/エリザベス・モス/マイケル・ケリー
ウィルフォード・ブリムリー/セス・ギリアム/ケヴィン・ブラウン
スティーヴン・ボイヤー/シャロン・ウィルキンス/キム・ショウ
"DRUGSTORE COWBOY-ドラッグストアカウボーイ"(1989) [movie-d]
ガス・ヴァン・サント監督作品の中で一番初めに観たのが、
この『ドラッグ・ストア・カウボーイ』だった。
当時高校生だった私はマット・ディロンとケリー・リンチのカッコよさにやられ、
ヘザー・グレアムのお人形めいたスタイルと美しさに、
アンドロイド役をやらせたらいいんじゃないかと空想したものだった。
ちなみに原作はジェームズ・フォーグル。
昨年73歳にして、薬局強盗をやらかし捕まっているというしょーもない爺さん。
筋金入りとはこういうことか、となんだか納得してしまうのが怖い(笑)。
そんなリアリティも含め、今思えば、『トレインスポッティング』の7年も前に、
同じジャンキーを主人公にして、こんなにもスタイリッシュな作品を撮っていたなんて、
改めて観返してみて、やはり彼の志向とそのぶれない作品づくりに驚嘆する。
マット・ディロンはじめケリー・リンチら、キャスティングもいい味を出していると思うけれど、
極めつけが、生涯をドラッグとともに生きたジャンキーの生き字引のような「神父役」にウィリアム・バロウズ。
彼が嬉々として薬を選りわけるシーンで、またさらにこの作品はリアリティを増す。
70年代はじめ、オレゴン州ポートランド。
マット・ディロン演じる主人公ボブはケリー・リンチ演じる妻ダイアンと、
ジェームズ・レグロス演じる相棒、そしてヘザー・グレアム演じるナディーンとチームを組んで、
薬を求めてドラッグストアや病院で荒っぽい犯行を繰り返す。
前半はとにかく彼らの行状をテンポの良いカメラワークで見せてゆく。
時に薬でトリップしている彼らの様子を映像で表すその解釈も、
何作も彼の作品を観た後で観ると、とにかくガス・ヴァン・サントらしく感じられる。
それってどういう感じ?と言われるとなかなか説明が難しいけれど、
紗がかかっているような、ふわりとした、他者の、暖かくもなく冷たくもない視線と言おうか。
トリップ中の映像に関してはトレインスポッティングの方が凝っているなとは思うけれど、
私は経験がないのでどちらが近いとも言い難い。
様々なトラブルがあっても、とにかく彼らの目指すものは一つ。ドラッグ。
そんな状況が一変するのは、ナディーンに起こる不幸があってから。
それに続く一連のトラブルの後、ボブに心境の変化が現れる。
後半はそんなボブが中毒の治療を受けるところが描かれているが、
前半後半ともにこの作品に感じるのは、
薬がいいとも悪いともはっきりした意思表示をせず、
ただ淡々と「ドラッグストア・カウボーイ」たちの生態を映し出す、その冷静な視線。
処女作マラノーチェから一貫して続く、ガス・ヴァン・サント独特の、世間に対する目線と言おうか。
この目線が嫌いな人は多分彼の作品に抵抗を感じ、
この目線に何かしら感じるものがあれば、彼の作品を続けて観ることになるのだろうと思う。
私はもちろん後者だし、彼の作品は『大好き』というわけではないのに、
何度となく観たくなってしまう。これも一種の中毒かもしれない。
相変わらずガス・ヴァン・サントの撮る空は悲しくも美しい。
DRUGSTORE COWBOY
ドラッグストア・カウボーイ
1989/USA/100min
監督:ガス・ヴァン・サント
原作:ジェームズ・フォーグル
脚本:ガス・ヴァン・サント/ダニエル・ヨスト
撮影:ロバート・イェーマン
音楽:エリオット・ゴールデンサール
出演:マット・ディロン/ケリー・リンチ/ジェームズ・レグロス/ジェームズ・レマー
ヘザー・グレアム/ウィリアム・S・バロウズ
筋金入り
バロウズの代表作
タイトル通り
この『ドラッグ・ストア・カウボーイ』だった。
当時高校生だった私はマット・ディロンとケリー・リンチのカッコよさにやられ、
ヘザー・グレアムのお人形めいたスタイルと美しさに、
アンドロイド役をやらせたらいいんじゃないかと空想したものだった。
ちなみに原作はジェームズ・フォーグル。
昨年73歳にして、薬局強盗をやらかし捕まっているというしょーもない爺さん。
筋金入りとはこういうことか、となんだか納得してしまうのが怖い(笑)。
そんなリアリティも含め、今思えば、『トレインスポッティング』の7年も前に、
同じジャンキーを主人公にして、こんなにもスタイリッシュな作品を撮っていたなんて、
改めて観返してみて、やはり彼の志向とそのぶれない作品づくりに驚嘆する。
マット・ディロンはじめケリー・リンチら、キャスティングもいい味を出していると思うけれど、
極めつけが、生涯をドラッグとともに生きたジャンキーの生き字引のような「神父役」にウィリアム・バロウズ。
彼が嬉々として薬を選りわけるシーンで、またさらにこの作品はリアリティを増す。
70年代はじめ、オレゴン州ポートランド。
マット・ディロン演じる主人公ボブはケリー・リンチ演じる妻ダイアンと、
ジェームズ・レグロス演じる相棒、そしてヘザー・グレアム演じるナディーンとチームを組んで、
薬を求めてドラッグストアや病院で荒っぽい犯行を繰り返す。
前半はとにかく彼らの行状をテンポの良いカメラワークで見せてゆく。
時に薬でトリップしている彼らの様子を映像で表すその解釈も、
何作も彼の作品を観た後で観ると、とにかくガス・ヴァン・サントらしく感じられる。
それってどういう感じ?と言われるとなかなか説明が難しいけれど、
紗がかかっているような、ふわりとした、他者の、暖かくもなく冷たくもない視線と言おうか。
トリップ中の映像に関してはトレインスポッティングの方が凝っているなとは思うけれど、
私は経験がないのでどちらが近いとも言い難い。
様々なトラブルがあっても、とにかく彼らの目指すものは一つ。ドラッグ。
そんな状況が一変するのは、ナディーンに起こる不幸があってから。
それに続く一連のトラブルの後、ボブに心境の変化が現れる。
後半はそんなボブが中毒の治療を受けるところが描かれているが、
前半後半ともにこの作品に感じるのは、
薬がいいとも悪いともはっきりした意思表示をせず、
ただ淡々と「ドラッグストア・カウボーイ」たちの生態を映し出す、その冷静な視線。
処女作マラノーチェから一貫して続く、ガス・ヴァン・サント独特の、世間に対する目線と言おうか。
この目線が嫌いな人は多分彼の作品に抵抗を感じ、
この目線に何かしら感じるものがあれば、彼の作品を続けて観ることになるのだろうと思う。
私はもちろん後者だし、彼の作品は『大好き』というわけではないのに、
何度となく観たくなってしまう。これも一種の中毒かもしれない。
相変わらずガス・ヴァン・サントの撮る空は悲しくも美しい。
DRUGSTORE COWBOY
ドラッグストア・カウボーイ
1989/USA/100min
監督:ガス・ヴァン・サント
原作:ジェームズ・フォーグル
脚本:ガス・ヴァン・サント/ダニエル・ヨスト
撮影:ロバート・イェーマン
音楽:エリオット・ゴールデンサール
出演:マット・ディロン/ケリー・リンチ/ジェームズ・レグロス/ジェームズ・レマー
ヘザー・グレアム/ウィリアム・S・バロウズ
筋金入り
バロウズの代表作
タイトル通り
"THE DREAMERS-ドリーマーズ(2003)" [movie-d]
ベルナルド・ベルトルッチの作りだす映像を美しいと思わない者の人生は、
ちょっとだけ、損をしていると思う。
もちろん彼の映像を必要としない人生もあるだろうし、それはそれで実り多い人生かもしれない。
彼の作り出す作品は時に賛否両論を生み出す。
正直に言うと、私も彼の作品に対する好き嫌いははっきりと分かれる。
ある作品はすごく好きになるのに、ある作品は取り立てて好きになれない。
彼はヌーヴェルバーグの面々を尊敬し、イタリア人らしからぬイタリア人の映画監督として、
独特の世界を作り上げてきた。
『ラストタンゴ・イン・パリ』のエロティックな孤独と絶望。
『ラスト・エンペラー』の圧倒的存在感。
『シャンドライの恋』のひたむきな美。
この『ドリーマーズ』は、『ラスト・エンペラー』以降受賞歴もなく、
ハリウッド資本で自分の趣味に合う映画だけ撮り続けている印象のある彼の、
今現在のところいちばん最近の作品。
68年の5月革命に揺れるパリが舞台。
創設者のアンリ・ラングロワの解雇に抗議するため集ったシネマテーク・フランセーズで、
双子の姉弟とアメリカ人留学生が出会う。
姉のイザベルはすぐに留学生マシューに興味を持ち、弟を絡めた奇妙な三角関係がスタート。
親が長期不在になるのをいいことに、マシューを彼らのアパルトマンに呼び寄せるふたり。
当時のパリの雰囲気、若者たちの風俗を描いている点でとても興味深い。
映画、という愛すべきものに対する若者たちの興味は尽きず、
この映画の中ではその貪欲さがそのまま性的な興味にシンクロする。
彼らが観ていた映画、彼らが聞いていた音楽、
それらに関する興味と屈折した愛情が作り出す異常な光景。
ベルトルッチの世界観というか、趣味がそのまま出ている映画だと思う。
美しいけれど、いままでの作品と比較して少し物足りない気がしてしまうのは、
登場人物と設定のせいだけだろうか??
ディテールへのこだわりを感じさせる数々のカットは美しかったし、
マイケル・ピット、エヴァ・グリーン、ルイ・ガレルも若者独特のナイーブさを表現しきっていたし、
公開されたほとんどの国でR-15指定になるような、
過激な性描写に体当たりしていたという点でも評価できると思う。
けれど個人的には、三人だけの閉塞的な関係のバランスが崩れていく瞬間の描き方がもの足らなかった。
そして特にラストの幕切れは少し締まらない感じがしてしまう。
ベルトルッチの若さに対する懐古趣味が露わになった、と言ったら言い過ぎだろうか。
五月革命の熱狂が、なんとなく架空の遊びのような他愛のないものに見えてしまったのは、
私だけではないのでは。
色々否定的な意見ばかり書いてしまったとは言え、この作品はやはり嫌いにはなれない気がする。
これはこれで悪くはないけれど、やはり彼の過去の作品との比較に固執してしまうのは、
私が歳をとったから、とも言えるかもしれない。
ドリーマーズ(2003)
THE DREAMERS
I SOGNATORI [伊]
2003/UK/FRA/ITA/117min
監督:ベルナルド・ベルトルッチ
製作:ジェレミー・トーマス
原作:ギルバート・アデア『ドリーマーズ』(白水社)
脚本:ギルバート・アデア
撮影:ファビオ・チャンチェッティ
出演:マイケル・ピット/エヴァ・グリーン/ルイ・ガレル/ロバン・ルヌーチ/アンナ・チャンセラー
ジャン=ピエール・カルフォン/ジャン=ピエール・レオ
原作です
ちょっとだけ、損をしていると思う。
もちろん彼の映像を必要としない人生もあるだろうし、それはそれで実り多い人生かもしれない。
彼の作り出す作品は時に賛否両論を生み出す。
正直に言うと、私も彼の作品に対する好き嫌いははっきりと分かれる。
ある作品はすごく好きになるのに、ある作品は取り立てて好きになれない。
彼はヌーヴェルバーグの面々を尊敬し、イタリア人らしからぬイタリア人の映画監督として、
独特の世界を作り上げてきた。
『ラストタンゴ・イン・パリ』のエロティックな孤独と絶望。
『ラスト・エンペラー』の圧倒的存在感。
『シャンドライの恋』のひたむきな美。
この『ドリーマーズ』は、『ラスト・エンペラー』以降受賞歴もなく、
ハリウッド資本で自分の趣味に合う映画だけ撮り続けている印象のある彼の、
今現在のところいちばん最近の作品。
68年の5月革命に揺れるパリが舞台。
創設者のアンリ・ラングロワの解雇に抗議するため集ったシネマテーク・フランセーズで、
双子の姉弟とアメリカ人留学生が出会う。
姉のイザベルはすぐに留学生マシューに興味を持ち、弟を絡めた奇妙な三角関係がスタート。
親が長期不在になるのをいいことに、マシューを彼らのアパルトマンに呼び寄せるふたり。
当時のパリの雰囲気、若者たちの風俗を描いている点でとても興味深い。
映画、という愛すべきものに対する若者たちの興味は尽きず、
この映画の中ではその貪欲さがそのまま性的な興味にシンクロする。
彼らが観ていた映画、彼らが聞いていた音楽、
それらに関する興味と屈折した愛情が作り出す異常な光景。
ベルトルッチの世界観というか、趣味がそのまま出ている映画だと思う。
美しいけれど、いままでの作品と比較して少し物足りない気がしてしまうのは、
登場人物と設定のせいだけだろうか??
ディテールへのこだわりを感じさせる数々のカットは美しかったし、
マイケル・ピット、エヴァ・グリーン、ルイ・ガレルも若者独特のナイーブさを表現しきっていたし、
公開されたほとんどの国でR-15指定になるような、
過激な性描写に体当たりしていたという点でも評価できると思う。
けれど個人的には、三人だけの閉塞的な関係のバランスが崩れていく瞬間の描き方がもの足らなかった。
そして特にラストの幕切れは少し締まらない感じがしてしまう。
ベルトルッチの若さに対する懐古趣味が露わになった、と言ったら言い過ぎだろうか。
五月革命の熱狂が、なんとなく架空の遊びのような他愛のないものに見えてしまったのは、
私だけではないのでは。
色々否定的な意見ばかり書いてしまったとは言え、この作品はやはり嫌いにはなれない気がする。
これはこれで悪くはないけれど、やはり彼の過去の作品との比較に固執してしまうのは、
私が歳をとったから、とも言えるかもしれない。
ドリーマーズ(2003)
THE DREAMERS
I SOGNATORI [伊]
2003/UK/FRA/ITA/117min
監督:ベルナルド・ベルトルッチ
製作:ジェレミー・トーマス
原作:ギルバート・アデア『ドリーマーズ』(白水社)
脚本:ギルバート・アデア
撮影:ファビオ・チャンチェッティ
出演:マイケル・ピット/エヴァ・グリーン/ルイ・ガレル/ロバン・ルヌーチ/アンナ・チャンセラー
ジャン=ピエール・カルフォン/ジャン=ピエール・レオ
原作です
THE DUCHESS-ある公爵夫人の生涯(2008) [movie-d]
女の一生。
女の幸せ。
典型的な見方かもしれないけれど、
この映画はそういう話なのだと思った。
そして、これは実際にあった物語。
ダイアナ元妃の祖先である、デヴォンシャー公爵夫人の生涯を綴った物語である。
キーラ・ナイトレイ演じる、稀に見る美しさと快活さと聡明さを兼ね備えたジョージアナ。
彼女は母親に言われ、レイフ・ファインズ演じるデヴォンシャー公爵の妻となる。
彼女に課せられた任務は男子を産むこと。
夫は、彼女が正妻として男子を産むこと、それ以外の、彼女個人にはまったく関心を持とうとしない。
それだけではなく、公爵は浮気や愛人との交流を続ける。
いかに美しく聡明で愛に溢れる魅力的な女性だったとしても、
真実の愛を求められないとしたら、こんなに哀しいことはないと思う。
ジョージアナことデヴォンシャー公爵夫人はそんな境遇に甘んじようとはしなかった。
政治の世界にも関わるようになり、そこで未来の首相となるチャールズ・グレイと出会い、激しい恋に落ちる。
こういう歴史絵巻は背景とビジュアルと、しっかりした役者さえそろえば、
決して駄作になることはない気がするのだけれど、
この作品はそういった意味では、登場人物の、特に主人公である公爵夫人の心の機微が見事に描けていた気がする。
同性だから、というところもあるかもしれないが、公爵夫人の葛藤、喜び、そして哀しみが、
時代と国を超えて迫ってくるような感覚で、自然と感情移入することができた。
キーラ・ナイトレイの美しさ、衣装、それぞれの建物や、当時の風景が見事。
それにしても自分の友人が夫の愛人となり、彼女と同居しなくてはならないという状況を、
どうやったら乗り越えられるだろう。それを表向き我慢することが当たり前な時代、とはいかに。
自分は愛人を妻と同居させる癖に、妻の浮気を徹底的に許さない男のエゴ。
それは時代背景にもよるのかもしれないけれど、今も昔も男と女の心理に大差はないのかも、とも思わされた。
豪華絢爛な雰囲気を楽しむのもよし、どろどろの愛憎劇にどっぷりつかるのもよし。
美しく、そして哀しい映画だった。
THE DUCHESS
ある公爵夫人の生涯
2008/UK=ITA=FRA/110min
監督:ソウル・ディブ
原作:アマンダ・フォアマン
衣装デザイン:マイケル・オコナー
編集:マサヒロ・ヒラクボ
音楽:レイチェル・ポートマン
出演:キーラ・ナイトレイ/レイフ・ファインズ/シャーロット・ランプリング/ドミニク・クーパー
ヘイリー・アトウェル/サイモン・マクバーニー/エイダン・マクアードル
女の幸せ。
典型的な見方かもしれないけれど、
この映画はそういう話なのだと思った。
そして、これは実際にあった物語。
ダイアナ元妃の祖先である、デヴォンシャー公爵夫人の生涯を綴った物語である。
キーラ・ナイトレイ演じる、稀に見る美しさと快活さと聡明さを兼ね備えたジョージアナ。
彼女は母親に言われ、レイフ・ファインズ演じるデヴォンシャー公爵の妻となる。
彼女に課せられた任務は男子を産むこと。
夫は、彼女が正妻として男子を産むこと、それ以外の、彼女個人にはまったく関心を持とうとしない。
それだけではなく、公爵は浮気や愛人との交流を続ける。
いかに美しく聡明で愛に溢れる魅力的な女性だったとしても、
真実の愛を求められないとしたら、こんなに哀しいことはないと思う。
ジョージアナことデヴォンシャー公爵夫人はそんな境遇に甘んじようとはしなかった。
政治の世界にも関わるようになり、そこで未来の首相となるチャールズ・グレイと出会い、激しい恋に落ちる。
こういう歴史絵巻は背景とビジュアルと、しっかりした役者さえそろえば、
決して駄作になることはない気がするのだけれど、
この作品はそういった意味では、登場人物の、特に主人公である公爵夫人の心の機微が見事に描けていた気がする。
同性だから、というところもあるかもしれないが、公爵夫人の葛藤、喜び、そして哀しみが、
時代と国を超えて迫ってくるような感覚で、自然と感情移入することができた。
キーラ・ナイトレイの美しさ、衣装、それぞれの建物や、当時の風景が見事。
それにしても自分の友人が夫の愛人となり、彼女と同居しなくてはならないという状況を、
どうやったら乗り越えられるだろう。それを表向き我慢することが当たり前な時代、とはいかに。
自分は愛人を妻と同居させる癖に、妻の浮気を徹底的に許さない男のエゴ。
それは時代背景にもよるのかもしれないけれど、今も昔も男と女の心理に大差はないのかも、とも思わされた。
豪華絢爛な雰囲気を楽しむのもよし、どろどろの愛憎劇にどっぷりつかるのもよし。
美しく、そして哀しい映画だった。
THE DUCHESS
ある公爵夫人の生涯
2008/UK=ITA=FRA/110min
監督:ソウル・ディブ
原作:アマンダ・フォアマン
衣装デザイン:マイケル・オコナー
編集:マサヒロ・ヒラクボ
音楽:レイチェル・ポートマン
出演:キーラ・ナイトレイ/レイフ・ファインズ/シャーロット・ランプリング/ドミニク・クーパー
ヘイリー・アトウェル/サイモン・マクバーニー/エイダン・マクアードル
ある公爵夫人の生涯 スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]
- 出版社/メーカー: パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
- メディア: DVD
ある公爵夫人の生涯 ディレクターズ・カット版 スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
- メディア: Blu-ray
"DISTRICT 9-第9地区(2009)" [movie-d]
いままでに、観たことがなかった異色SF。
公開時、タイトルだけは見聞きしてはいたものの、
なんとなく「マーズ・アタック」みたいな映画を想像してしまい、観ていなかった。
まず設定が面白い。
舞台は映画でもあまりなじみのない都市、南アフリカ共和国のヨハネスブルク。
都市上空に突如現れた宇宙船は故障により自分たちの星へ帰ることができない。
28年後、乗船していたエイリアンたち(その見た目から、地球人にprawn(エビ)と呼ばれる)は、
MNU (英:MULTI-NATIONAL UNITED) と呼ばれる超国家機関によって第9地区という隔離地区で、
管理・監視状態に置かれていた。
そんな状況をドキュメンタリー形式で、現場の映像、関係者へのインタビューを交えて、描き出していく。
そのノンフィクション的な空気が程よい緊張感とテンポを与え、引き込ませる。
主人公はMNUの職員であり、エビたちをさらに別の隔離地区第10地区に移動させるためのプロジェクトのリーダーに抜擢され張り切るヴィカス。
ちょっとしたトラブルからヴィカスはエビが所有する謎の液体を浴び、
徐々に体の一部からエビと同じような体に変形してゆき、普通は人が扱えないエビたちの武器も扱えるようになる。
そのことからMNUに拘束されたり、ギャングに捉えられたりとトラブルに巻き込まれ、
逃げながらもやっきになって治療方法を模索し、彼を調べようとするMNU側の拘束から逃れようとするヴィカス。
変態の恐怖は並大抵のものではないだろう。
そして自分たちの星への帰還を目指すあるエビの親子との出会いがあり、
彼らとの関係性の中で、人間としての自分を失いそうになりながらも奮闘する彼の姿は目が離せなくなる。
ところどころストーリー展開の甘さはあったような気もするけれど、
強引に勢いで持っていってしまう強さもあった。
設定自体も彼らの国の最大の問題である、アパルトヘイトを下敷きにしているため、
心情的にも理解がし易かったかもしれない。
ラスト、ドキュメンタリー番組を締めくくるような形で終わるのだけれど、その幕切れも悪くはなかった。
ただし、映画として面白い!!というには「何かが足りない、何かが違うかも」という気にさせられてしまい、
私は物足りなさを感じてしまった。
ある意味レベルの高いアニメ的な作品だったとも思う。
PRAWN(エビ)というネーミングは昔一世を風靡した、
Todd McFarlaneのSPAWN(スポーン:カエルの卵などの意味)を思い出させるし、
エイリアンたちのデザインや彼らの武器など、
監督たちの世代的にも、日本の漫画やアメコミなどの影響も受けているんじゃないだろうか、と感じさせられた。
けれどアニメが原作でなく、製作者自身の世界観で製作されたところに、
彼らのオリジナルシナリオの独創性と、強みを感じる。
ちなみに主人公ヴィカスを演じるシャールト・コプリーは監督の高校時代の友人で、他の役者もほぼ無名の人ばかり。
ヴィカスのセリフがすべてアドリブだったという事実には驚かされる。
卓越したライブ感はそんなところから生まれているのかもしれない。
あまりこの手の作品を好んで観ない私にはとても目新しくて楽しめる作品になっていた。
ただし、映像的にかなりグロい表現も含まれるため、食事中の視聴はお勧めできません(笑)。
DISTRICT 9
第9地区
2009/USA=NZ/111min
監督:ニール・ブロンカンプ
製作:ピーター・ジャクソン/キャロリン・カニンガム
脚本:ニール・ブロンカンプ/テリー・タッチェル
編集:ジュリアン・クラーク
音楽:クリントン・ショーター
音楽監修:ミシェル・ベルシェル
出演:シャールト・コプリー/デヴィッド・ジェームズ/ジェイソン・コープ/クリストファー・ジョンソン
ヴァネッサ・ハイウッド/ナタリー・ボルト/シルヴァン・ストライク/ ジョン・サムナー/ ウィリアム・アレン・ヤング
私の好きなフォトジャーナリストの本です。未読ですが、読んでみたい。
公開時、タイトルだけは見聞きしてはいたものの、
なんとなく「マーズ・アタック」みたいな映画を想像してしまい、観ていなかった。
まず設定が面白い。
舞台は映画でもあまりなじみのない都市、南アフリカ共和国のヨハネスブルク。
都市上空に突如現れた宇宙船は故障により自分たちの星へ帰ることができない。
28年後、乗船していたエイリアンたち(その見た目から、地球人にprawn(エビ)と呼ばれる)は、
MNU (英:MULTI-NATIONAL UNITED) と呼ばれる超国家機関によって第9地区という隔離地区で、
管理・監視状態に置かれていた。
そんな状況をドキュメンタリー形式で、現場の映像、関係者へのインタビューを交えて、描き出していく。
そのノンフィクション的な空気が程よい緊張感とテンポを与え、引き込ませる。
主人公はMNUの職員であり、エビたちをさらに別の隔離地区第10地区に移動させるためのプロジェクトのリーダーに抜擢され張り切るヴィカス。
ちょっとしたトラブルからヴィカスはエビが所有する謎の液体を浴び、
徐々に体の一部からエビと同じような体に変形してゆき、普通は人が扱えないエビたちの武器も扱えるようになる。
そのことからMNUに拘束されたり、ギャングに捉えられたりとトラブルに巻き込まれ、
逃げながらもやっきになって治療方法を模索し、彼を調べようとするMNU側の拘束から逃れようとするヴィカス。
変態の恐怖は並大抵のものではないだろう。
そして自分たちの星への帰還を目指すあるエビの親子との出会いがあり、
彼らとの関係性の中で、人間としての自分を失いそうになりながらも奮闘する彼の姿は目が離せなくなる。
ところどころストーリー展開の甘さはあったような気もするけれど、
強引に勢いで持っていってしまう強さもあった。
設定自体も彼らの国の最大の問題である、アパルトヘイトを下敷きにしているため、
心情的にも理解がし易かったかもしれない。
ラスト、ドキュメンタリー番組を締めくくるような形で終わるのだけれど、その幕切れも悪くはなかった。
ただし、映画として面白い!!というには「何かが足りない、何かが違うかも」という気にさせられてしまい、
私は物足りなさを感じてしまった。
ある意味レベルの高いアニメ的な作品だったとも思う。
PRAWN(エビ)というネーミングは昔一世を風靡した、
Todd McFarlaneのSPAWN(スポーン:カエルの卵などの意味)を思い出させるし、
エイリアンたちのデザインや彼らの武器など、
監督たちの世代的にも、日本の漫画やアメコミなどの影響も受けているんじゃないだろうか、と感じさせられた。
けれどアニメが原作でなく、製作者自身の世界観で製作されたところに、
彼らのオリジナルシナリオの独創性と、強みを感じる。
ちなみに主人公ヴィカスを演じるシャールト・コプリーは監督の高校時代の友人で、他の役者もほぼ無名の人ばかり。
ヴィカスのセリフがすべてアドリブだったという事実には驚かされる。
卓越したライブ感はそんなところから生まれているのかもしれない。
あまりこの手の作品を好んで観ない私にはとても目新しくて楽しめる作品になっていた。
ただし、映像的にかなりグロい表現も含まれるため、食事中の視聴はお勧めできません(笑)。
DISTRICT 9
第9地区
2009/USA=NZ/111min
監督:ニール・ブロンカンプ
製作:ピーター・ジャクソン/キャロリン・カニンガム
脚本:ニール・ブロンカンプ/テリー・タッチェル
編集:ジュリアン・クラーク
音楽:クリントン・ショーター
音楽監修:ミシェル・ベルシェル
出演:シャールト・コプリー/デヴィッド・ジェームズ/ジェイソン・コープ/クリストファー・ジョンソン
ヴァネッサ・ハイウッド/ナタリー・ボルト/シルヴァン・ストライク/ ジョン・サムナー/ ウィリアム・アレン・ヤング
私の好きなフォトジャーナリストの本です。未読ですが、読んでみたい。
"DIVA"(1981) [movie-d]
映画に本気でのめりこみだしてからもうかれこれ15年以上、
数えきれないくらいの作品を観ているけれど、
時にかなり深く心に残り、忘れられない映画がある。
そんな1本がこの作品。
J.J べネックスの長編第一作"DIVA"
当時都会とも言えず田舎とも言えない、
なんだかぱっとしない海辺の高校に通う学生だった私は、
今まで想像したこともないくらいスタイリッシュな世界を眼にし、
文字通り「雷に打たれた」ような衝撃を受けたのを覚えている。
主人公は音楽を熱烈に愛する郵便配達夫の青年ジュール。
神秘的な歌声を持つディーバ=歌姫に心酔するあまり、彼女のアリアを盗み録りしてしまう。
そんな中、彼のモビレッタ(原付自転車)に売春組織の内幕を暴露した告白テープが隠された事から、
存在しない筈のディーバのテープ、地下組織の秘密が録音されたテープという2本のテープを巡って、
次々とストーリーが展開してゆく。
数々の登場人物もキャラクターからファッションまで独創的だ。
主人公ジュールの初々しさ、
彼が恋焦がれる黒人の歌姫の優美、
彼を追う二人組の殺し屋たちのデフォルメされた独特のスタイル。
ストーリーのキーマンとなる謎の男、
リシャール・ボーランジェ扮するゴロディッシュの達観した自由な佇まいも魅力的だ。
なにせ彼を言い表す言葉が"波を止めることを夢見る男"。
どう聞いてもタダモノではない、もしくはアブナイ人的な雰囲気が(笑)。
同居人のヴェトナム系少女アルバがローラースケートで行き来する彼のロフトや、
彼が主人公を匿う灯台に行ってみたいと思ってしまったのは私だけではないはず。
複雑に絡み合ったストーリーの裏に流れる主人公の恋心。
コメディやスリラーの要素もありながら、映像美も忘れ難い。
ヌーヴェル・バーグ以降、いまいちぱっとしなかったフランス映画界に衝撃を与えた金字塔的作品だと思う。
今観てもまったく古びた感じがせず、
むしろまた違った面白さを見いだせるから不思議だ。
こちらより"ベティ・ブルー"の方が有名だけれど、
個人的にはべネックスの作品の中では長編第一作目ながら最高の作品だと思う。
DIVA
ディーバ(1981)
1981/FRA/118min
監督: ジャン=ジャック・ベネックス
製作: セルジュ・シルベルマン
原作: ドラコルタ
撮影: フィリップ・ルースロ
音楽: ウラディミール・コスマ
出演: ウィルヘルメニア・フェルナンデス/フレデリック・アンドレイ
リシャール・ボーランジェ/チュイ・アン・リュー/ドミニク・ピノン/アニー・ロマン
数えきれないくらいの作品を観ているけれど、
時にかなり深く心に残り、忘れられない映画がある。
そんな1本がこの作品。
J.J べネックスの長編第一作"DIVA"
当時都会とも言えず田舎とも言えない、
なんだかぱっとしない海辺の高校に通う学生だった私は、
今まで想像したこともないくらいスタイリッシュな世界を眼にし、
文字通り「雷に打たれた」ような衝撃を受けたのを覚えている。
主人公は音楽を熱烈に愛する郵便配達夫の青年ジュール。
神秘的な歌声を持つディーバ=歌姫に心酔するあまり、彼女のアリアを盗み録りしてしまう。
そんな中、彼のモビレッタ(原付自転車)に売春組織の内幕を暴露した告白テープが隠された事から、
存在しない筈のディーバのテープ、地下組織の秘密が録音されたテープという2本のテープを巡って、
次々とストーリーが展開してゆく。
数々の登場人物もキャラクターからファッションまで独創的だ。
主人公ジュールの初々しさ、
彼が恋焦がれる黒人の歌姫の優美、
彼を追う二人組の殺し屋たちのデフォルメされた独特のスタイル。
ストーリーのキーマンとなる謎の男、
リシャール・ボーランジェ扮するゴロディッシュの達観した自由な佇まいも魅力的だ。
なにせ彼を言い表す言葉が"波を止めることを夢見る男"。
どう聞いてもタダモノではない、もしくはアブナイ人的な雰囲気が(笑)。
同居人のヴェトナム系少女アルバがローラースケートで行き来する彼のロフトや、
彼が主人公を匿う灯台に行ってみたいと思ってしまったのは私だけではないはず。
複雑に絡み合ったストーリーの裏に流れる主人公の恋心。
コメディやスリラーの要素もありながら、映像美も忘れ難い。
ヌーヴェル・バーグ以降、いまいちぱっとしなかったフランス映画界に衝撃を与えた金字塔的作品だと思う。
今観てもまったく古びた感じがせず、
むしろまた違った面白さを見いだせるから不思議だ。
こちらより"ベティ・ブルー"の方が有名だけれど、
個人的にはべネックスの作品の中では長編第一作目ながら最高の作品だと思う。
DIVA
ディーバ(1981)
1981/FRA/118min
監督: ジャン=ジャック・ベネックス
製作: セルジュ・シルベルマン
原作: ドラコルタ
撮影: フィリップ・ルースロ
音楽: ウラディミール・コスマ
出演: ウィルヘルメニア・フェルナンデス/フレデリック・アンドレイ
リシャール・ボーランジェ/チュイ・アン・リュー/ドミニク・ピノン/アニー・ロマン
- アーティスト: Johann Sebastian Bach,Alfredo Catalani,Vladimir Cosma,Charles Gounod,Vladimir Cosma,Vladimir Cosma,London Symphony Orchestra,Orchestre Symphonique de Londres,Gerard Parmentier,Raymond Alessandrini,Wilhelmenia Fernandez
- 出版社/メーカー: Pomme Music
- 発売日: 1998/04/24
- メディア: CD